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しばらくして、車が走る方向がアパートの方角でないことに気がついた。
「部長? どこに行くんですか?」
前を向く部長に問い掛けても、一瞬わたしに目を向けただけで何も答えてくれない。
彼の黙りは時々あることだし、しつこくするのも嫌なので、こんな時はわたしも黙る。
部長がわたしの嫌がることをするなんて思えないし、何より少しでも一緒の時間を過ごせることが嬉しいから。
相変わらずお洒落な洋楽が流れる車内。
その空間は静かだけど、心地がいい。
ぼんやりと窓の外を眺めていると、膝に乗せた左手が取られ、目を向ければ、部長の大きな手がわたしのそれに絡め、包み込んでいた。
部長を見るとさっきまでと変わらない表情でまっすぐ前を見ている。
なのに手にはキュッと力が込められていて、彼の温もりが伝わってきて嬉しくなり、わたしも僅かに握り返した。
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