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高級な服を着たからって、わたしが変わるわけないことなんか十分わかっている。
でも謎に包まれた部長のことをひとつひとつ知る度に、彼との距離が遠くなる気がしてならない。
爪が食い込むくらいに握り締めた手を、部長の手がやんわりと制した。
「あんたはバカだな。何もわかってない」
握り締めた手のひらをゆっくりと開いて、爪痕の残ったそこを優しくなぞる。
「俺はあんたが隣にいて恥ずかしいなんて思ったことない。むしろ見せびらかしたいくらいなのに」
わたしの手のひらに唇を寄せる部長の姿は、本当に王子様みたい。
現実味のないその光景を他人事のように見つめていると、整った顔が近づいてきた。
目を閉じてそれを受け入れる。
「……キス魔、ですね」
甘い空気に沸き上がる羞恥心を誤魔化す為に呟くと、彼は目を細めて口角を上げた。
「あんたにだけだよ」
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