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別に叱られたわけでもないのに、その一声で背筋が伸びる。
そんなわたしの反応がおかしかったのか、後ろから小さな笑い声がした。
そして頭を固定していた手が外され、首元にヒヤリとした感触。
それに触れてみると、小振りな石がついたネックレスだとわかるけれど、鏡がないから見ることはできない。
「次はこっち向いて」
ゆったりとした口調に従って体勢を変えると、ルージュで唇をなぞる。
部長は口の端を持ち上げて意地悪に笑って、困ったな、と目を細める。
「イチゴみたいでおいしそうで、何回塗っても追い付かない」
いつだったかイチゴは嫌いだと言った、その唇が一瞬だけわたしに触れる。
「できた」
キスが仕上げだといわんばかりに、親指で自分に移ったルージュを拭いながら妖艶に微笑んだ。
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