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「眞生さんのお母さんと……?」
これは、すごく嬉しいかもしれない。
彼を生み育てた人と同じ味を作れたなんて。
「なんか、懐かしいな」
ふわりと笑みを溢した眞生さんを見て、わたしの胸はきゅんとときめいた。
大人な彼があまり見せることのない、無邪気な笑み。
箸を動かしながらも、家族のことを思っているのかな。
何だか嬉しそうで、わたしの頬も自然に弛んだ。
好きな食べ物は? そう聞いた時、気付くべきだった。
『家に帰ってきたって気がする』
その言葉の裏に隠された意味。
今は名前の違う家族の思い出だったんだ。
「いっぱい、食べてください」
いつでも作りますから、その言葉だけを飲み込んでわたしも食べ始めた。
そうして少しだけゆったりした朝食を終えて、玄関で靴を履く眞生さんを見て、あ、と間抜けな声を出すわたしを、彼が振り返った。
「何? 忘れ物?」
彼はわたしのことをどれだけおっちょこちょいだと思っているのだろう。
沢山の書類やノートパソコンが入ってずっしりとした重みのあるバッグを手渡しながら、訝しむ彼を見上げた。
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