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耳に掛かったままだった髪がするりと流れて、かすかに甘い香りがした。 それは部長の香水の香りで、嫌でも耳に触れた吐息を思い出してしまう。 「意味、わかんない……」 部長のことは、まだ殆ど知らない。 知っているのは、優しい笑み、目を細めた時の艶っぽい雰囲気。そして、ひんやりしているのになぞられると何故か熱くなる綺麗だけど男の人らしい指に……わたしの鼓膜を優しくくすぐる低く甘い声。 ――俺を、意識したらいい それが、どんな気持ちで発せられた言葉なのか。 あの透き通るような瞳に、わたしはどう映っていたのか。 わからない。 わからない。 わかりたくない。 ……でも一番わからないのは、わたしの苦しいくらいに主張する鼓動の理由。 コーヒーメーカーが最後の一滴を落とした。 ふわりと漂うコーヒーの香りが何だか甘い気がした。
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