第二章

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最後の一点、波状に形成したクリスタルビーズに、パールを組み込んだティアラを、そっとケースに収める。 後は明日、アサギリの本社で最終チェックを受けるのみだ。 時計に目をやると、もう午後9時を回っていた。 ここ最近は仕事部屋まで多岐さんがお茶を運んでくれていたが、今日は私が下に降りて行こうと彩乃は立ち上がった。 円らな瞳をウルウルさせながら「終わったんですね!」と駆け寄って来る多岐さんの姿が目に浮かぶ。 と、そのタイミングを待ってましたとばかりに携帯が鳴った。 着信の名前を見て思わず笑がこぼれる。 「はい、彩乃です」 「あぁ愛しの姫、やっと呼びかけに応えて頂き恐悦至極に存じまするぅ~」とおどけた声が響いた。 「プッ、もぉ澄華ったら、いきなり笑わせないでよ」 「姫を笑顔にさせる為なら拙者、火の中 水の中でござ~る!」 いったい何キャラ?!とツッ込みたかったが、笑い過ぎて言葉が出ない。 ひとしきり彩乃の笑いが収まるのを待って電話の相手が言葉を継ぐ。 「一段落したんでしょ?仕事」」 仕事がいついつ片付くなんて報告しなくても、いつも彼女は本能でタイミングを察知する。 「澄華の嗅覚には脱帽だわ」 今頃それに気付いたかと言う代わりに「フフッ」と、柔らかく耳をくすぐる声が心地良い。
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