第1話

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男の車は真っ直ぐにさなえの車の左隣に停めると、運転席の窓を開けた。 さなえも助手席の窓を開けると、「さなえさん?」と男が声を掛けてきた。 さなえは声を出せずに、小さくうなずいた。 男に促されてさなえは自分の車を降りると、男の車の助手席に乗り込んだ。 さなえはちらっと男の顔を見たが、ご主人様と言うイメージとは違い、穏やかな紳士と言う感じに見えた。 何回もメールのやりとりはしてはいたが、実際に会うのはもちろん初めてだった。 『この人が私のご主人様?』 もっと恐いイメージを持っていたさなえは、そのギャップに少し違和感を感じはしたが、同時に優しそうな人でちょっぴり安心もするのだった。 さなえの緊張は男にもすぐわかったと見えて、「緊張してる?」と声をかけながら、男は右手をのばすとさなえの胸に当てた。 さなえその手を除けようとはしなかった。服の上からでも男のぬくもりが伝わって来る気がした。しかしさなえはやはり男の顔を真っ直ぐに見る事は出来なかった。 「ドキドキしてるよ。心配しなくても大丈夫だよ。」男はそう言いながら、左手をさなえの首筋に回すと、いきなりキスをしてきた。 男の力強く優しいキスで、さなえの力は次第に抜けて行くのだった。 さなえは周りの視線が有るかどうかもまったく気にならなくなっていた。仮に誰かが見てたとしても、見せてあげよう。そんな気にさえなっていた。 『私はこの人に尽くすんだわ。この人の奴隷になる。』 もはやその事がさなえの考えられるすべてだった。
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