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何の話、と真帆が尋ねるより先に、青年は行動を開始する。
先程まで沈んでいたのが嘘のように、決意を秘めた瞳を燃やし拳を握りしめた。
「使命を全うするまで、私はこの家に世話になる身! では、ご家族への挨拶をしてこようっ」
「は!? バカっ、やめ……っ!」
彼女が引き止めるより早く、風のように部屋を去ってしまう半裸。
ほどなくして真帆の耳に届いたのは、階下の母の声とおぼしき、断末魔と粉うほどの絶叫だった。
ああ、娘の部屋から半裸の若い男がだなんて笑えない。
あたしの願いを叶えに来たとか言って、やることなすこと全部迷惑行為以外のなにものでもないじゃん。
やだ、もう。
考えるのも嫌。
青年の行動は、彼女の持ちうる思考回路では到底処理できなかった。
――可能ならば時間を戻したい。
しかし時間は戻らない。
だから当然、振り出しに戻ることはできない。
しかし無意識のうちに過去の行動をなぞろうとしたのか、真帆は再びふて寝することを選択した。
もうしばらく部屋に引きこもろう。
――あたしはもう終わりだ。
ぽふりと頭を枕に沈めて、毛布をやや乱暴にひっつかんで頭の上まで被る。
階下で起きているだろう混乱から目を背け、ただ時間の経過だけに身を委ねるために。
しばらく頭の中をさまざまな感情が渦巻いて落ち着かなかったが、やがて意識はまどろんでいく。
彼女の意識が眠りに落ちるまで、誰かが部屋に詰問しにくることもなかった。
目が覚めたら、全部夢だったらいいのに――
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