服の下は誰だって全裸

3/17
41人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
  驚きと期待に弾み上がった声。 真帆にとっては、初めて彼の存在をありがたく思えた瞬間だった。 まるでアバターの服を着替えたり顔を変えたりするように『設定変更』が出来るなら…… この退屈なリアルを面白いものにしてくれたらいい。 自分の望む『設定』に従ってくれれば、間違いが起こるはずもない。 ところが青年はゆるく首を振って俯く。 長い髪がはらりと落ちて、真帆からは表情を見ることができなくなった。 「それは、無理だ」 「ちょ、どうして!?」 与えられた希望を一瞬で否定され、期待は打ち砕かれる。 真帆にとって、彼は再び役立たずの邪魔者の枠へと押し下げられた。 「……どうやら私達はお互いについて理解を深める必要があるようだな。しかし、それより先にこれだ」 あたしにとっては重要なことなのに、それ以上に話すべきことなんてあるの? 疑いの目を向けて彼の手の動きを追う。 テーブルの上に置かれていたそれは、どうやら部屋に入ってきたとき持ってきたらしい、トレイに載せた土鍋。 彼はその蓋を開けて、真帆が取りやすいように向きを変えて差し出した。 「……なんで、お粥?」 「夕飯が出来たとき呼びに来たが眠っていたのでな。具合が悪いのかもしれないと母君に伝えたのだ」 別に具合は悪くない。 胸糞悪いだけで。 しかし夕飯を抜く理由にはなりえないし、空腹を感じていたのも確かだ。 これを食べながら話せばいいか、と、真帆はレンゲを手に取った。  
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!