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驚きと期待に弾み上がった声。
真帆にとっては、初めて彼の存在をありがたく思えた瞬間だった。
まるでアバターの服を着替えたり顔を変えたりするように『設定変更』が出来るなら……
この退屈なリアルを面白いものにしてくれたらいい。
自分の望む『設定』に従ってくれれば、間違いが起こるはずもない。
ところが青年はゆるく首を振って俯く。
長い髪がはらりと落ちて、真帆からは表情を見ることができなくなった。
「それは、無理だ」
「ちょ、どうして!?」
与えられた希望を一瞬で否定され、期待は打ち砕かれる。
真帆にとって、彼は再び役立たずの邪魔者の枠へと押し下げられた。
「……どうやら私達はお互いについて理解を深める必要があるようだな。しかし、それより先にこれだ」
あたしにとっては重要なことなのに、それ以上に話すべきことなんてあるの?
疑いの目を向けて彼の手の動きを追う。
テーブルの上に置かれていたそれは、どうやら部屋に入ってきたとき持ってきたらしい、トレイに載せた土鍋。
彼はその蓋を開けて、真帆が取りやすいように向きを変えて差し出した。
「……なんで、お粥?」
「夕飯が出来たとき呼びに来たが眠っていたのでな。具合が悪いのかもしれないと母君に伝えたのだ」
別に具合は悪くない。
胸糞悪いだけで。
しかし夕飯を抜く理由にはなりえないし、空腹を感じていたのも確かだ。
これを食べながら話せばいいか、と、真帆はレンゲを手に取った。
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