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少女はベッドの上に仰向けに体を投げうっている。
制服のブレザーは脱ぎ捨てられ、ベッドの脇に丸まった状態で転がったまま。
第二ボタンまで開けたブラウスは彼女が何度も体勢を変えたせいでだらしなく皺が寄り、短すぎるスカートも同様にずり上がって太ももを晒していた。
少女にとって現在興味があるのは右手に納められた『それ』だけ。
ふたつのパーツを組み合わせたようなそれは折り畳むことができ、上のパーツには画面、下のパーツには平たいボタンの並ぶ――『携帯電話』だった。
日が暮れかけたにも関わらず明かりは付けられていない。
携帯電話の画面が放つ白い光と、淡く光るボタンだけが彼女の顔を見つめ返す。
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ミサきち:
そっかぁ、まぉちゃんも大変だね;;
ごめん、半端だけどそろそろ彼氏くるから落ちるね><
また明日☆
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「……アホくさ」
視線は画面を軽く撫でるだけで、彼女は誰に伝えることもなく独りごちる。
彼女の化身たる『アバター』だけは、画面の中でただ微かな笑みを浮かべていた。
ぱちりと閉じられた携帯電話は、ベッド脇のテーブルの上に滑り落とされる。
仮の名前、仮の姿、嘘と真実が都合よく混ざった自分。
仮想と現実の狭間で揺らぎながらもそれを操り、その世界に埋没していく。
――こんなはずじゃ、なかったのに。
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