青き文才

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 オレンジ色の西日が射す図書室は、いつも通り空調がよく効いていた。200ボルトのでっけぇエアコンがニ台、低い唸り声をあげながら稼動している。そしてその真ん前、ちょうど温風が当たるお気に入りの席で、俺は居眠りをこいていた模様。辺りにはすっかり誰もおらず、グラウンドから響く運動部の声が少しだけ開いた欄間から滑り込んでくる。 「あー……やべー全然進んでねー……」  俺に倣ってスリープしていたパソコンを慌てて起こしてやると、書き散らしたままの文章が画面いっぱいに映し出された。短編と言えど、まだ中盤手前。完結には程遠い……。  軽く溜め息をついた後、俺は作業を再開させる。ノートパソコンをタイプする音が軽快に響き始めた。なんだか無機質で贅沢なこの空間が結構好きだなぁなどと、頭の隅で考える。  約二週間後に迫っている文化祭で、俺が所属している図書委員会では文芸同人誌の発行を通例どおり、今年も手掛けることとなった。何故ならば、俺の通う高校に文芸部なんてモノは無いからだ。人口約五千人の小さな島にたった一校しか無い高校は生徒数も少なく、当然の如く部活の種類も限られている。従って古くから我が校では、文芸部的な役割を図書委員会が兼ねている――らしい。  そして今年は書ける奴が少ないという理由から、去年編集側だったまさかの俺までもが書き手側に借り出された訳だが……書き始めてみると、これがなかなか面白い。  ファンタジーやらSFを読むのは大好きで、俺は高校に入学する前から図書委員になろうと決めていた。決め手になった理由は、中学三年の時に読んだ、同人誌。文化祭に遊びに来た時、偶然手にしたその冊子を開いた俺は衝撃を受けた。 「……青山深……か」  今でもペンネームを覚えている。彼の文章は特に鮮烈だった。名前の通り、爽快かつ深みのある青い色を連想させる。潔く纏まったストーリーとセンス溢れる文体で綴られた十七ページの短編。  到底、俺には書けないだろう。何年書いたって、追いつけやしないだろう。地元を舞台にした、俺達の気持ちを代弁してくれているかのような共感を覚える、まさに研ぎ澄まされた文体だった――。
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