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「俺もあんなのが書けたらなぁ……くそー、ぜってー書いてやる!」
ささやかな雄叫びで俺はサイダーの泡のように浮かび上がる考え事や微かに居残る眠気を吹き飛ばす。続いて欠伸が出た。
「森島君、言ってるそばから欠伸するなんて……先生見てたわよ?」
「うわ、瀬ヶ谷さん! いつからそこに」
背後から聞こえたややハスキーな女声は、我が図書委員会のプリンス……いや、プリンセス。
「うわ、とは失礼ね。あなたがその席でパソコンを立ち上げてすぐに居眠りし始める前からずうっと司書室にいましたけど。何か文句でもあるのかしら」
「な、いや、ないっす……」
司書のセンセイ、瀬ヶ谷紀子の三十路間近の笑顔に俺は圧倒される。「さっさと帰れ」そう顔に書いてあるように見えてならなかったからだ。
「冗談はさておき、そろそろ下校時間よ。熱心な心意気は褒めてあげるけど、続きは家でやんなさい? さっさと片付けて退室するように」
くっ、やっぱりか。まだ最終下校時刻まで三十分ほどあるというのに、瀬ヶ谷さんてば気が早い。まぁいつものことなのだが。
「なんだよー、この後デートでもある訳ー?」
「森島君はいいよね、夕飯の買い物とかする必要ないもんね。独身女の身にもなって欲しいもんよね」
自虐的に諭す瀬ヶ谷さんの台詞に思わず吹いた。ホント、瀬ヶ谷さんっておもしれー。多分俺達とどこか似た感覚を持っているから、生徒から人気があるんだろうな。頭の固い教師たちとは、なんか違う気がする。
昼休みや放課後、司書室が賑わう理由は多分これだ――サラサラの茶髪ショートに快活な笑顔と、眼鏡を取れば多分歳の割に結構イケててノリもいい瀬ヶ谷さん。男子は普通に絡むし、女子は悩み事相談をしたりもするらしい。だからこそ俺達は、彼女に親しみを込めて「さん」付けで呼んでいる。
「仕方ないから今日のところは帰りまっす」
「はいはい、気をつけてねー」
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