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廃棄の中は暗く、酷く荒らされていて、硝子やゴミが散らかっていて歩きづらい…。
歌声が聞こえたのは多分屋上だろう…。
階段を登って声のする屋上に向かった。
階段の踊り場の窓から月光が射し込む…。
その日は眩しい程の満月だった。
林間に恐れや恐怖は無い。生にそこまで執着がないと言っても過言ではない。
そして屋上に出る扉のノブに手を掛けた。
歌声が近い…きっとこの扉を開けたらすぐに歌の正体に対面することになる。
躊躇なく扉を開けた。
そしてすぐに目に入ったのは眩しい程の満月の前に立った細身の男性。
『誰?あんた…』
綺麗な金髪が月の光で更に際立つ。色白て細身…
身長も高い…。
彼が近付いて来る…
顔を近くで見ただけで名前はすぐにわかった。
人気モデル…
―コウ―
最近ネットでも話題になっていたので嫌でも名前と顔を記憶している。
何故こんな所に…?
『ねー…中学生がこんな所で何してんの?』
中学生…確かに林間は身長165センチと小柄だ。
良く年齢確認や補導されかける…
『……』
幽霊じゃない…
それだけ解れば林間はこの場所に用は無い。
モデルだろうと一般人だろうと興味も無いし、関わりたくはない。
林間が背中を向けて帰ろうとすると
彼はその場に座り込んで
手に持ったチョークで何かを書きながら口に出して読み始めた。
『あんたは、記憶を無くした事ある?』
"記憶"それは林間にとって聞き流せない言葉だった。
林間は立ち止まって落ちていたチョークを拾い上げ、振り向いた。
そして彼の隣に座って
何も言わないまま自分の名前を書いた。
― 林間美月 ―
『リンカン??ミツキ??』
『はっ!?お前…本気か!?ハヤシマだ!!ハヤシマ ミヅキ!!』
林間は取り乱して大きな声を上げた。久しぶりに感情と大声を出した。
彼はそんな林間を見て笑った。
『リンカーンみたいでかっこいいじゃん…俺は…』
― 灯益光 ―と書いた。
写真で見る、モデル"コウ"はとてもクールそうなイメージがあったので今、目の前にいる灯益光の振る舞いは意外だった。
『トウマス ヒカルが本名だから…よろしくね?美月さん』
人をリンカンと呼んでみたり…自分だって機関車みたいな名前をしているのに…
―変な奴…けど、面白い奴だ…―
不思議と彼をもっと知りたいと林間は思った…。
久しぶりに他人に興味を持った瞬間だった。
『ん、よろしくな…光』
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