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光は林間がネットで見た写真のイメージとはまったく違う人物だった。
明るく、少し天然…
写真のクールなイメージは全く感じられなかった。
林間は屋上の床にいくつも文字が書かれていることに気付いた。
―10月23日 雑誌の取材―
―10月25日 学校―
日にちと、その日にあった出来事などが書いてある。雨などで消えている文字などもあるが床が文字で埋まる程、書いてあった痕跡も見える。
林間はその文字を見ないように空を仰いだ。
床に書いてあるのはスケジュール表…というよりは日記の様だった。
『日記ならノートにでも書けばいいじゃねぇか?』
林間は光に思った事を口にした。
光は少し考えてから
空に浮かぶ月を見て言った。
『俺、時々記憶が消えるんだ…』
―記憶が消える…―
『その時自分が何をしていたのかも…何をどう感じていたのかもわからない』
林間には羨ましく思えた。
忘れたい事や記憶が林間にはありすぎる。
『昔はノートに書いたりしてたけど、読み返すと自分自身に起こったことじゃない。誰か他の人に起こった出来事に見えるんだ…小説を読んでるみたいな感覚っていうのかな?』
光は上手く表現できないや、と笑った。
『俺には…少し羨ましいな』
林間は立ち上がって壊れたフェンスの前に立った。
『俺の親父は元刑事でな…警察辞めて探偵事務所やってたんだ。けど…俺が中3の時に親父は殺された。母親もそれからすぐに死んだ…2人とも俺の目の前で…』
普段林間は夢を見ない。
唯一見る夢は…両親の死。
『俺は記憶した事を忘れられなくなった…見たもの聞いたもの全てな』
林間が一歩踏み出した。
落下防止のフェンスは壊れている為無い。
4階建ての廃棄。落ちたら無事では済まない高さだ。
『美月さんと俺は似てるようで、真逆なんだな?』
光は林間の隣に立った。
記憶を失う者と
記憶を失えない者。
『俺も両親いないからさ。そこは一緒だな?』
光は林間に笑って見せた。
林間は思った。
光の笑顔は亡き両親に似ている。
顔などが似ている訳ではない。けれど、優しく笑う姿に両親の面影を見た。
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