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林間の視線を光は感じていた。
しかし、自分を見る林間の表情は何かを懐かしむようで…
とても悲しそうな顔だった。
その胸が痛むような表情を前に光は何も言えなかった。
ただ、気付いていない素振りをして月を見上げていた。
お互い無言の場が続いが、心地よい時間だった。
『さてと…明日は久しぶりに学校だ』光は体を伸ばしながら廃棄を出る為に歩き始めた。
『俺も帰って仕事だ…』
林間も体を伸ばしてから後に続いて歩き出した。
今日の出来事だけは忘れたくないと思った。林間にとって久しぶりにそう思えた記憶だった。
廃墟の前で別れる際
『じゃあ、また』
お互いの連絡先など交換もしていないのに自然と口から出た言葉だった。
林間は光の後ろ姿を見送りながら煙草に火をつけた。そして空の月に向かって煙を吐いた。
煙草の煙で月光がぼやける
そしてその煙は冷たい風に掻き消された。
林間は煙に自分の想いを重ねた。
煙草の煙は
また会いたいという
久しぶりの好奇心
月の光は
深く関わり傷付く事や
失う恐怖
久しぶりの記憶だけあれば林間は充分だった。
それ以上を求める事が怖い…
林間は光に二度と会いに来ることは無いだろう。
つまり、外を殆ど出ない林間と光が再開する事は…
無い。
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