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長い黒髪は結われずに肩を滑り、寛いだ姿であるとすぐに分かる。
白と赤が対照的な帷子と袴は砂利を敷いた庭園によく映える。御歳二十五にして一児の母には見えない。
まだまだ少女であるかのような柔らかさを伴った肢体。
ふわりと羽織った禁色の上掛けだけが身分を示していた。
顔を窺うのはいくら非公式な場でも無礼にあたるのである程度まで近付かれたところで目線を伏せた。
砂利のこすれる掠れた音。
政庁からは遠ざけられた四阿だからなのか、音はやけに響いた。
立ち止まる。
「顔をお上げなさい」
柔らかなお声。されど有無を言わさず。
命令することに、慣れている声だと思った。
人のためにしか生きれぬ人間が命令という形で人にかかわり続けた結果。
そういった色の、声だった。
ひたすら、清冽。
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