29人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
気付けば、顔を上げて相対していた。
湖のような静かな目とぶつかる。一石を投じられた水面のように、僅かにそれが揺らいだような気がした。
陛下は柔らかく笑みを湛えながら尋ねる。
多分、
これが、彼女の皇帝としての有り様なのだろうと、素直にそう思う。侮られず、圧せず、包み込む。慈母と称えられることに納得してしまうような厳かさ。
担ぎ上げられた者の、悲哀。
「そなたが笙子ですか」
「はい、陛下。こうしてお目にかかれますこと、恐悦至極にございます」
「堅苦しい挨拶はよろしいです。この四阿では気儘に振る舞うのが作法です」
作法をあまり心得ていない私をおもんばかってくれる言葉。
生きやすい世界を生きてきた人ではないと、思った。
担ぎ上げられた。
借り出された。
自身の事情ではなく、他人の事情で動く者同士の感情がそこにはあった。
最初のコメントを投稿しよう!