クチハテ

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「そなたは優しい子ですね」 陛下は少しだけ、寂しげに微笑んだ。 私も、陛下の微笑を受け止めた。 陛下は躊躇わずに、躊躇うことすら許されていないかのように命を下す。 「笙子。そなたに行って貰わねばならぬところがあります」 「すぐにですか?」 「いえ、冬になればです」 冬になれば。 つまりそれは。 「明禮どちらですか?」 他国。 禮の情報は明にも届く。禮にも明の間者はいるし、明にも禮の間者はいる。 私の話が艦長を通して伝わっていても不思議ではなかった。 「禮です。レストヒブルグはそなたの訪問をもって休戦を申し出たいとしています」 「南はどうしますか?」 冬の間、攻めるのは容易ではないが容易ではないというのは不可能ではないということだ。 私がいない間、攻められては十数年前の二の舞だ。 陛下は感情を見られることを慣れた人間の顔で、私と視線を合わす。 「外交努力を払います」 「具体的には?」 「一時的なものですが、吾が娘を明にやります」 「……申し訳ございません」 先の戦で私は目立ちすぎたのだった。各国の極東への注目を呼び寄せた。陛下が殿下を明に向かわせるのは皇女、と要求されたからなのだろう。 「そなたのせいではありません。そなたに頼るしかない吾が国の脆さが故です」 「私は私にできることを致します。陛下がそうなさるように」 真っ直ぐに。陛下と視線を交わす。私達は多分とてもにているのだろう。血のつながりは無いはずなのに親子とは不思議なものだ。
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