クチハテ

16/23
前へ
/78ページ
次へ
向かい合った人は不可思議だった。 「お呼び立てしてすいませんねぇ、殿下」 そんな言葉から始まった会談。にへらにへらと飄々笑う彼が、五島大佐。 来客を座ったまま迎え、自分は机の下で足を組む。 「内密に参っております。礼は不要です」 そもそも皇女として扱われるのは慣れていない私がそう窘めれば、短躯が傾いだ。どうやら笑っているらしい。 「了解了解ってね。じゃあ座りなよ、笙子ちゃん?」 笙子ちゃん。 そんな呼ばれ方初めてだ。 しかも軍に属する方から。 まだ若いというのもあるにしても、やはりどこか外れたところが見えるような。 「興さんとは会ったんだって?」 多分、秋月少尉より五つくらい上なだけだろう。口調のせいか、余計に若く見えるのか。 表情といい態度といい、これくらい軍人らしくない軍人に会ったのは初めてだった。 「萩司令のことですか?」 仕方なく着席して箸を取る。海の傍であるせいか、魚介類がおいしそうだ。 「そう。興さん」 「……お会いしましたよ。とても尊敬できる方だと思いました」 「興さんは尊敬できる人間だよ。軍人としてもね。だから俺はあの人が嫌いなんだけど」 驚いた。この方の噂からして、萩司令には色々世話になってそうなのに。合わなかったということなのだろうか。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加