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向かい合った人は不可思議だった。
「お呼び立てしてすいませんねぇ、殿下」
そんな言葉から始まった会談。にへらにへらと飄々笑う彼が、五島大佐。
来客を座ったまま迎え、自分は机の下で足を組む。
「内密に参っております。礼は不要です」
そもそも皇女として扱われるのは慣れていない私がそう窘めれば、短躯が傾いだ。どうやら笑っているらしい。
「了解了解ってね。じゃあ座りなよ、笙子ちゃん?」
笙子ちゃん。
そんな呼ばれ方初めてだ。
しかも軍に属する方から。
まだ若いというのもあるにしても、やはりどこか外れたところが見えるような。
「興さんとは会ったんだって?」
多分、秋月少尉より五つくらい上なだけだろう。口調のせいか、余計に若く見えるのか。
表情といい態度といい、これくらい軍人らしくない軍人に会ったのは初めてだった。
「萩司令のことですか?」
仕方なく着席して箸を取る。海の傍であるせいか、魚介類がおいしそうだ。
「そう。興さん」
「……お会いしましたよ。とても尊敬できる方だと思いました」
「興さんは尊敬できる人間だよ。軍人としてもね。だから俺はあの人が嫌いなんだけど」
驚いた。この方の噂からして、萩司令には色々世話になってそうなのに。合わなかったということなのだろうか。
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