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都会の体をなしていたのは発車してから五分のあたりまでであった。
そこからの道のりはどこからか柔らかな匂いのする景色が広がっていた。
どうやら赤坂町というのは田舎であるようだ。
電車の乗客もくたびれたスーツも鈍い光を放つ眼光もいなかった。
ただ風景の一部のような老夫婦がちらほらといるのみであった。
子供が楽しげに妹と窓を眺めている。
電車に乗るのは初めてなのだろう。
アナウンスの声が空席の多い車内に響く。
二人の子供は驚き、慌てて椅子に座り直した。
赤坂町についたようだ。
鰐革のバッグを右腕にかけ降り口へと向かった。
どの車両も時々いびきをかいた中年の男がいることを除けば似たり寄ったりであった。
降り口につくと目尻の下がった車掌が加奈子を待ち構えていた。
定期を見せ電車から降りると何とも形容し難い香りが鼻にとびこんできた。
一面にさく菜の花のほのかな香り。
それに覆いかぶさるように稲の籾殻を焼いた匂いが空一面に広がっていた。
奇妙な組み合わせだ。
赤坂町は都心とはうって変わり一面に田んぼの広がる田舎町であった。
駅にある古ぼけた町の地図によると、五番地はすぐそこらしい。
加奈子は舗装されていない道と地図を見比べ、ため息をつき歩きだした。
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