4人が本棚に入れています
本棚に追加
「新九郎殿、お市殿、よくぞ参られた。ゆるりと寛がれよ。」
城に着くと備前さまが笑顔で温かく迎えてくれた。
客間に通され、直ぐに茶菓が運ばれてきた。
茶菓子の甘い香りに紛れて、花筒に生けられた梅の花の爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。
部屋には備前さまと長政さまと市だけ。
市さまはどうしたんだろう?
いつもは備前さまと一緒に出迎えてくれるのに・・・
「あの、備前さま・・・市さまは?」
気になったから、備前さまに尋ねた。
「市ならば・・・」
その時、パタパタと廊下を走る音が聞こえた。
「ととさま!」
弾んだ少女の声と襖が開かれたのは同時。
「茶々、どうした?」
現れたのは日本人形みたいに可愛らしい少女。
「あ、いちねえさま。ながにいさま!」
こっちに気付いた茶々が満面の笑みを浮かべる。
前に会った時より大きくなってる。
子供の成長って早いな。
でも、この笑顔は昔と変わらない。
赤ちゃんだった茶々を抱かせてもらった時もニコニコと笑ってた。
「茶々、お客様がいらっしゃっているのにいきなり部屋に入ってはいけませんよ。」
茶々の後ろから窘める市さまの声が聞こえた。
「・・・ごめんなさい、かかさま。」
シュンと肩を落とした茶々に市さまが優しく声を掛ける。
「分かればいいのですよ。新九郎殿、お市殿、騒がしくてすみません。」
微苦笑を浮かべた市さまが部屋に入ってきた。
.
最初のコメントを投稿しよう!