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「なんだ、簡単な事じゃないか。私も髪を栗色に染めてしまえばたちまちにモテモテ街道まっしぐら」
「いやだがしかし、それだけは…阿呆達と同じアホをすることだけは、それでは私まで阿呆の仲間入りだ」
もはや己との戦いであった。
私にとって遺言書をどこに隠すかという事よりも重大な決断は美容院にたどり着いた事で容易に片付いた。
「いらっしゃいませ。初めての御来店ですね。今回はカットご希望ですか?カラーご希望でしょうか?」
昨日見た桜を1とするならば、その茶髪美容師の美しさは10であった。
「カッ…ラー…ご希望です」
迂闊!女の子と話した経験が近所のガキンチョと喧嘩するよりも少なかった私は、あえなく緊張という荒波に背中を押されて「ご希望です」などという丁寧語を自分自身で活用してしまった。さぁ美人美容師よ、私の失態を笑い転げるが良い。さすれば私とあなたの関係もここまでだ。
「かしこまりました。それでは今回初めての御来店ですのでカルテを書いて頂いてもよろしいでしょうか」
ところが美容師は目の色一つ変えずに業務連絡を述べた。
「かしこまりました」
またもや「かしこまりました」などという言葉をチョイスしてしまった私は自分自身に対して諦めていた。もういい、いっそ丁寧語キャラを貫き通そう。
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