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桜の花よりも品格漂う美容師は手慣れた手付きでレジを打っていた。
やがてその方は私に近寄ってきて
「申し遅れました。本日担当をさせていただきます北沢と申します」
と述べました。北沢さんか-爽やかな名前だなと思いつつ
「坂東でございます」
と答えている私がいた。美容院で互いに名前交換を済ませたところで私はこれからの高校生活を大きく左右する髪型と髪色の決断を下さなければならなかった。
「今回カラーをご希望ということで、どのような色をお考えですか?」
北沢さんはどうやら私が髪色をはじめから決めて来たものだと思っているしい。それがさっき北沢さんを見て髪を染めると即決してしまい、実はまだどんな色にするか決めていないと告げた時の北沢さんの驚きっぷりときたら、まるで京王線で新宿まで行くつもりが寝過ごして八王子まで行ってしまった時の阿呆のようであろう。
「それが未だに何色になさるか決めかねている所存なのでございます…」
もはや尊敬語も丁寧語もあったもんじゃない。
「そうですか」
なんとあっさりとしているお方でしょう。北沢さんのマヌケ面を見るつもりが、あまりにも拍子抜けな返事が返ってきたものだから、この場面は私のマヌケ面を見せる結果に落ちついた。無様な自分よ、あえてトゲトゲしく言おう。アホウ。
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