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「銀髪の人って街であまり見かけませんよね」
北沢さんは唐突に疑問を投げかけてきた。
「そうっすね、あまり見かけません」
つまらない返事をしたところで、私は面白い光景を目の当たりにする。
「だから、帽子は脱がないって言っているぢゃないか。この辺をちょいちょい切ってくれればいいんだ」
「お客様、申し訳ありませんがそれは出来かねます」
「なぜだ。応用をきかせれば良いだけの話しではないのかね、頼むよ」
「…申し訳ありません」
「おぉジュリエット、君は鬼か」
「…そう言われましても」
どうやら黒のシルクハットをかぶった客が店員ともめているようだ。それにしても今どきシルクハットを頭にのせているおじさんは珍しい。私は彼に銀髪にする勇気を与えられた。
しかしあの男爵はなぜシルクハットを取らないのだろうか。中に一回り小さなシルクハットが入っていて、またその中にさらに一回り小さなシルクハット、そしてさらに小さなシルクハット…とでもなっているのだろうか。はたまた単純にハゲを隠しているのだろうか。どっちにしても私にとっては美容院の中で北沢さん以外に興味あるものを発見できたことがなにより楽しかった。
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