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闇(やみ)に浮かぶ赤い月。
その月は、上部のみが8割ほど欠けており、それはまるで、妖(あや)しく笑う口のようであった。
その月の上部では、一際(ひときわ)大きな2つの星が、黄色くギラギラと輝いている。
──と、三日月が形を変え、声を発した。
そう。
月は、口のようなものではなく、口そのものだったのだ。
『ヒャハ……ヒャハハハハッ!』
月が、口が、下品に笑う。
『嗚呼(アア)、聴コエル……聴コエルヨ』
口だけでなく、その上部にある黄色い星──目をも歪(ゆが)め、闇は、醜(みにく)く笑う。
『聴コエル、聴コエルヨ……旨(ウマ)ソウナ、心臓ノ音ガ──』
*
5月。
早くも春が引っ越し準備を始めたらしく、ゴールデンウィークが開けたばかりだというのに、じめじめむしむしとした日が続いていた。
そんな湿気を帯びた空気が生徒達にも移っているのか。
はたまた休みボケを引きずっているのか。
理由は定かではないが、教室では、生徒達がだらけきっていた。
ゴールデンウィーク。
それは、黄金週間というだけのことはあり、生徒達は長い連休を各々楽しく過ごしたようだ。
そんな夢のような日々から学校という名の現実世界に引き戻された生徒達だが、休みがあけたことを機に切り換えられる者は少ない。
大半の生徒達はまだまだゴールデンウィークの余韻(よいん)にどっぷり浸(ひた)っており、それに甘んじている。
教師達の間にも、それを良しとした雰囲気が流れており、それが今の状況の原因と言っても過言ではない。
もっとも、教師達は
「まあ、あと2、3日もすれば生徒達も変わるでしょ」
と、生徒達を信じてのことなのだが。
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