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私立卯辰(うたつ)高校。
それが、この高校の名だ。
創立80年という長い歴史を持つこの高校の生徒数は、1200人。
クラスは10個あり、アカデミーコースが2クラス、特進コースが3クラス、普通コースが5クラスという配分になっている。
その普通コースである1年G組では、今、4時間目の古典の授業が行われている。
教壇(きょうだん)では白髪(はくはつ)の年老いた男性教師が、まったりとした口調で本文を朗読していた。
しかし、生徒の多くは机に突っ伏し、心地良さそうに眠りについている。
男性教師の話なんて、ほとんどの生徒が聞いていなかった。
この光景は、休みボケによるものというよりも、この教師が担当する授業の名物となっている。
非常勤講師として働く、齢(よわい)67の男性教師は、その長い教師生活が物語る通り、教えることに関してはベテランではある。
しかし、年老いたことが原因なのか、もともとなのかは判らないが、眠気を誘うまったりとした口調、優しい声音、ゆったりとした授業速度等々が作用し、生徒達は知らず知らずのうちに眠りについてしまうのだ。
その効果は覿面(てきめん)で、授業開始から10分程で5割の生徒が夢の世界へと誘(いざな)われる。
今回もその効果はしっかり表れており、非常勤がのんびりまったり「な~そ」の禁止構文を説明しているが、誰も聞いていない。
な寝そ!(現代語訳:ねるな!)
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