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「起立、礼」
頭を深々と下げて、誰よりも先に頭を上げたのと同時に教室を後にする。
門を出て、歩きながら《今から向かう》と優にメールをし、駅のトイレに駆け込んだ。
顔には、薄っすらと汗が浮かんでいる。
その汗を丁寧に拭き、少しでもかわいく見えるようにと化粧を始める。
六月とはいえ、もう十分に暑い。
朝着ていた紺色のセーターは腰に巻かれている。
ペンシルアイライナーでラインを引き、薄くマスカラをつけて、薄いピンク色のリップクリームを塗る。作業が終わるのに、五分もかからなかった。
初めてのデート。
そして、一週間ぶりに優に会える。
私のテンションは落ちることを知らない。
電車に乗っているだけなのに、心臓の動きが早くて自分の血の動きが分かる気がした。
時間ピッタリに待ち合わせ場所に着くと、優の姿は既にあった。
壁に寄りかかって携帯をいじっている姿を見たほんの一瞬の間、時間が止まったかのように周りのものが見えなくなった。ただ、白い世界に優だけが立っていた。
《今、何処?》
《もう居るよ》
キョロキョロと辺りを見回す優を見て、初めて二人で待ち合わせをした時のことを思い出しまがら、あんな素敵な人が私を探していることに、私を見つけて顔に笑顔を浮かべて私の方に近づいてくることに優越感に似た感情を覚えた。
笑顔になる優に、止まらないドキドキ。
私の前で止まった優のニッコリ笑顔は、心臓に悪い眩しい笑顔。
「優君、遅くなってごめんね。」
「あ、久し振り…お…お、お姫、さ…ま」
突然の言葉に、今まで直視しないように反らしていた視線を優に向ける。
私の目の前には、顔を真っ赤にした優が立っていた。
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