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顔が可愛いとかそうじゃないとか、スタイルがいいとか悪いとか、そんなものは人を見る判断材料にはならない。
外見をひどく気にしている年上の従姉妹にも、それはそれは数えきれないほどに訴えてきた。俺より六年も早くこの世に誕生しているくせに、あの人は自分を卑下しては落ち込むくせがあるのだ。
しかもあの人の悪いところは、そんな悩みや泣き言を、他人に打ち明けないことだ。転んで痛いとか、自分の失敗で誰かを怒らせてしまったとか、そんなことで、とても大人とは思えないほど号泣するくせに、肝心な時にはそれができない。
だけど、ずいぶん前に一度だけ、見てしまったことがある。
あれは確か、僕がまだ小学生の低学年だった頃。風邪の為に熱を出してしまい、学校を休んだ日だった。どうしても仕事を休めなかった両親がお願いをして、近所に住む母の姉、つまり叔母さんの家に預かってもらった時だ。
夕方になって熱が下がり、起き上がれるようになった僕は、大好きな従姉妹が帰宅するのを、今か今かと待ちかまえていた。
「もうすぐ帰ってくるわよ」
その言葉を合図に、従姉妹の部屋にこっそり入った。机に飾られた写真を見ながら待っていたら、がちゃりと扉が開く音が聞こえて、おかえりなさいと言って振り向いた時、見てしまった彼女の顔。
怖くなって、その場から逃げ出したくなってしまうほどの衝撃だった。
―――表情がなかったのだ。
虚ろな目はどこを見ているのか分からなかったし、ふらふらと歩いてベッドに倒れ込み、それっきり動かなくなった。
声をかけることもできずに立ち尽くしていた僕の姿は、きっと彼女の目には映っていなかったに違いない。
どれくらい時間がたったか分からないけれど、枕から顔を上げ、膝を抱えて座った従姉妹。ゆっくり上を向き、次の瞬間、涙が滝のように溢れていた。流れ落ちる水の量は、とても目から出ているとは思えないほどで、今思い出しても胸が痛くなる光景だった。
僕はまだ子供だったけれど、それを踏まえても彼女が傷ついているんだということは一目瞭然だった。
あれだけの涙を流しているのに、声を出すこともなかったからだ。
苦しそうに時折息を洩らしながらも、声は出さずに泣き続けていた。
どうしていいか分からずにそっと部屋から出て、もといた部屋に戻り布団に潜り込んで、ただ怯えていた僕にとっては、トラウマになるほどの衝撃だった。
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