26人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
と、まあ、そんな光景がしっかりと刻みつけられてしまっているわけだけど、はからずもそのおかげで学んだこともある。
その従姉妹が部屋から出てきた時にはもう、いつもの笑顔に戻っていたのだ。もちろん腫れた目や、明らかに無理をしているんだろう不自然な明るさは、隠せてはいなかったけれど。……それだけ無理をしていたってことなのだろう。
それはずいぶん後からだんだん分かってきたことなのだけれど。
それで僕は、どんな人だってきっと、誰も知らない場所で泣いていることもあるってことを知った。
それはきっと、同学年の誰よりも早く理解したはずだ。
ふんわりと暖かい空気を振りまいて、幸せのお裾分けをしてくれているかのような従姉妹が、トラウマとともに僕に教えてくれたこと。
女の子を泣かせちゃいけないってことと、人は誰しも傷つくことがあるから、その人の本質を見なきゃいけないという事実だ。
そして高校生になった今、僕の視線の先にいるのは、一人の女の子。何故かいつもあの子がいる。
最初にそのことに気がついた時、どうしてことごとく僕の視線を遮るように現れるのか、それはとても不思議だったし、少しだけ不快でもあった。
特別目立ってるわけじゃないし、ずば抜けて美人でもない。顔のラインにそって流れるショートボブの髪がとてもよく似合っていたし、可愛らしい印象はあったけれど。
あ、可愛いといえば……あの体型もそうだ。あの女の子の体も年上の従姉妹と同じように、ちょっと丸くて柔らかそうで、思わず触りたくなるようにぽっちゃりとしている。丸くてつるんとした肌の顔と、丸くてぷくぷくした体は、愛嬌があって、なんだかとても可愛い。
だけど毎日、それも幾度となく、視界に入られることに嫌気がさしていたのも事実だ。そのことに多少なりともいらいらしているのに、見える範囲にずかずかと踏み込まれるのは嫌だった。
仲が良いわけもなければ毎日会話をするわけでもない。そりゃ朝にでも出会うと、おはようの挨拶ぐらいはするけれど。
別にね、心の中に留まってるって人でもないんだ。心の中にはいないのに、彼女はいつも、何故か僕の目に映ってしまう。
これはとても不可思議で、嫌な感覚なのだ。
あ、そういえば、思い出したことがある。
最初のコメントを投稿しよう!