序章

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駿府臨済寺 静に佇みながら手を合わせた坊主が座っていた。 太原雪斎 今川氏親の推薦で義元の教育係をした事から、義元の軍師となり執政なども取り仕切り、武田、北条、今川の三国同盟を結ばした当人である 歴史家達の中でも”軍師”と世に残しているのはだれかと尋ねられるとこの雪斎の名が上がる。 それはひとえに他の軍師と呼ばれる者たちと違い、兵さえもたず戦の流れを指揮していたからであろう また北条の風魔にならい忍びと呼ばれる影の者を作っていた。 「雪斎さま……”籐道衆が頭貧乏人”はせ参じました。」 「来たか……此度の失敗の償いはさせたか……」 「灯夜に命じまして……」 「毒の灯夜ならば問題はあるまい、しかしそれよりも問題なのは今回のことを信秀に知られた事か……」 「その点はさほど問題ないかと思われます。」 「ほぅ………」 「今度の件は甲賀ものの仕業にみせかけており、むしろ松平家の謀りと思われておるかと……」 「しかし発見したのはあの信秀が長子信長の側近”誘宵”が息の者であろう。 見せかけた程度で、松平と思うかな? むしろ甲賀にみせかけ、松平と判断させられるとなると身事(人質)を義元さま近くに置いている、我が今川家を疑っておるはずじゃ……」 雪斎はゆっくり立ち上がると、ろうそくに火をつけるとろうそくを、貧乏人の側に置いた。 「だが……今の織田家に今川の謀りに気を割くことはできはしまい。 さりとて……筒抜けでよいわけでもない。 いずれ刀や弓矢といった孫子から続く兵法が崩れる時が来る。 兵の量がそのまま力から消える時、今のような失敗はその家さえ亡くす要因となりかねん。 この意味……籐道衆の頭ならわかるであろう?」 そしてろうそくの火を目の前で吹いて消す雪斎……… 貧乏人は手をぐっとにぎる 「我も齢60を迎えんとしている。 手ぬるい失敗はこれまでにせよ……これは警告ではない命令じゃ貧乏人」 「はっ!!!」 「よい下がれ……」 「失礼いたします。」 そっと襖しめた貧乏人の気配が消える。 雪斎はまた座りなおすと無言のまま手を合わせていた……   
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