序章

9/30
前へ
/357ページ
次へ
尾張南西部勝幡城 尾張守護職三奉行のひとり織田信秀の城 天守閣で無精髭をそのままに、幽玄と佇む偉丈夫”織田贈従三位信秀”が座っていた 「信長ただ今参りました。」 信長は襖をゆるりと開けると、頭を垂れながら中に入り臣下が座る下座の脇に控えた。 信秀はそんな信長の動作を見終わると、いきなり立ち上がり 「のぉぉぉぉぶぅぅぅぅなぁぁぁがぁぁぁぁ!!!」 と長身の信長を抱えた信秀は、幼子にする様に頬をすり寄せ甘えてきた。 信長はやれやれと黙ってそれを受け入れながら、誘宵に目配せをし外に出るように指示を出した。 「相変わらず、信長は可愛いのぅ……それもこれも後少しで見れなくなるのか……」 「信秀様……いなくなると申しましても、美濃斉藤家に赴くだけ、それも数日には尾張に帰参いたします。」 「何を言うか、我が子があの蝮の所に行くと言うのだ。 父親として心配するのは当たり前であろう……お前がいなくなればいかが致す。 織田家今後にもさしさわる……おお信長…わしから離れんでくれぇぇ。」 「いや……あの信成がおられますので、家督のことは……」 「信長ぁぁぁぁぁ!!!」 まったく信長の言を無視し信秀は、赤子の様に抱えながら天守閣の部屋内で遊んだ。 信長もやれやれと呆れながら、今川、斉藤に挟まれ常に存亡の危機にさらされ続け、尾張の地を守っていた信秀の心の安らぎになるならと、甘んじて受け入れていた。 事実この尾張の危機はとてつもないものであった。 今川が松平家を呑み込み、東国の強国北条家、武田家と同盟を結び、戦国最強国とならんとしていた。 斉藤道三との和睦の為の結婚も両国がこの今川家の脅威に感じた故の協定である。 隣国に接した尾張はここ最近の今川との戦は連敗続き、ついには自国案祥城が奪われてしまっていた。
/357ページ

最初のコメントを投稿しよう!

390人が本棚に入れています
本棚に追加