花霞

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眺めているうちに、何故か、その人が消えてしまいそうな感覚に襲われた。 もしかして、次に強い風が吹いたら、桜の花びらと一緒に風の彼方へ去っていくんじゃないか……。 そんなふうに思った。 この人は……キミは、僕の前に舞い降りてきた天使なんじゃないか、って…。 天使だから、現われてすぐに消えてしまうかも……。 天使…。 天使に性別はあるのかな? なんて、わけの分からないことを考えてた。 そういえば……僕はこの人に一目惚れしたけど、今更ながら性別を全く気にも留めていなかったことに気づいた。 立ち姿は綺麗で線は柔らかだったけど、でもよく見れば、女性の線の柔らかさとは違ってた。 『あらぁ…。もしかして…僕ってば、男を好きになっちゃった?』 ちょっとショックだったけど、それでも、好きになった気持ちはちっとも消えなかった。 この場所に立ってずっと見つめてるけど、いくら此処から距離があるとはいえ、いつまでも見てたら、気づかれないかなぁ。 でも見てたい。 もっと近くに行きたかったけど、何故か僕は動かずに此処にいた。 動いたら、それこそ何処かへ消えそうな気がしたから。 幸い、平日ということもあってか、満開の桜の小道にいるのは僕とその人だけだった。 だから、他人の往来の邪魔になることはないから、誰の目を気にすることもなく、此処にいられた。 悪いなぁと思いつつ、勝手にその人を観察し始めた。 しばらく桜を見上げていたが、ふと視線を落とし、しゃがみ込むと何かを手に取った。 どうやら、桜の花びらを拾ったみたいだった。 『あの花びらをどうするんだろう?』 拾った桜の花びらを手のひらに乗せると、自然の風にまかせて、それを宙に舞わせた。 その光景は、ここが地上だということを忘れさせてしまいそうだった。 再び、地面に落ちている花びらを拾うと、今度は自分で花びらに息を吹きかけた。 花びらの行方を目で追って、視線が僕のほうに向いてきた。 気づくだろうか…。 .
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