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「いくらなんでも、それはないだろうな…。」
でも立ち姿といい、遠くではあるけど、横顔といい、一日も忘れることがなかったキミに似ていた。
まさか…。
僕はゆっくりと歩き出した。
あの日とは違って、ぼんやりと立ちすくむことなく、真っ直ぐにキミに向かって歩き出す。
近づくにつれ、どんどん確信が深まる。
間違いない。
ずっと会いたかった人だった。
早足でキミに近づく。
あの日のキミは、桜を見上げてまぶしそうにしていた。
でも今日のキミは、桜を見上げて少し悲しげな横顔を見せていた。
キミの名前を知らない僕は、なんて声を掛けていいのか迷った。
迷った挙句、
「ひとりですか?」
と声を掛けた。
一瞬、ハッとしたキミの横顔。
ゆっくりと僕のほうを見るキミ。
そして、あの時と同じく、
「はい。」
と答えた。
「桜、好きなんですか?なんか、さっきからずっと桜を見上げてたから…。」
僕はあの日と同じ質問をする。
でも違っていたのは、キミの答え。
「…好きです。」
「でも…悲しそうでしたね。どうしてですか?」
「大好きな桜なのに、自分で嫌な思い出を作っちゃったから…。」
「嫌な思い出?」
「うん。あり得ない自分の気持ちに気づいて…逃げなくてもいいのに、逃げちゃいけなかったのに、僕は逃げちゃったから……。
自分で嫌な思い出にしちゃったんだ。」
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