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「別れて欲しい。」
「………」
彼は特別驚いた表情もしなかった。
わかっていたのかもしれない、私が今日別れを切り出す事を。
「…詠二君は…」
“私の事、好きじゃなかったし、これから先も好きになれないでしょ”
言えなかった。
言ったら私の嘘がバレてしまう。
ずっと、知らないふりという嘘をついていた事が。
「やっぱり、いいや」
彼には好きな人がいる。
ずっと前から、今もなお。
だけど彼の好きな彼女はもう二度と会えなくて、私はその時の彼の弱みに付け入っただけ。
期待してなかったわけじゃない。
いつか、好きになってくれたらそれでいいと思っていた。
彼は優しかったし、悪い所なんてきっとなかったから、私さえ待っていれたら大丈夫だと、何の根拠もなく思っていた。
だけど彼は彼女以上に私を愛してくれないと何の根拠もないけど気付いたのだ。
それが酷く、辛かった。
手を繋ぐ度、
抱き締められる度、
キスをする度、
好きだと言われる度、彼が私越しに彼女を思い出している事を知っていたから。
「…ありがとう。さようなら。」
私は、そう言って歩き出す。
振り向きたかった。
振り向けなかった。
泣きたくなかった。
泣いてしまった。
私にとっては、恋でした。
(ほんとは少し、追いかけてきて欲しかった。)
20101120.
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