記憶の欠片

第1週 休暇

――暑い

2年前から勤め始めた会社のビルを出て、最初に思ったのは当たり前のことだった。

『今日から夏本番。お出かけの際の日焼け対策商品は…』

無駄に笑顔を振りまく１人のアナウンサー。

――ブラウン管の向こうは、涼しいのだろうか

などと、ボケた考えをしている自分に気付き小さく舌打ちをした。

長期休暇の取れた僕が久しぶりに実家に電話をすると、ちょうど大学が夏休みに入ったという妹を連れて、祖母のいた田舎に行けと命令された。

――何のために休暇を取ったのか

ため息をつきたくなるのをこらえ、会社のパーキングに停めてあった自分の車のエンジンをかけた。