第 1 話

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        さて、正気に戻ろうじゃないか。    何を恍けたことを言っているのだろうか、この御仁は。  あたしは腕に抱いた小動物を地面に下ろし、その整い過ぎた顔を凝視する。  あたしは作業着、彼は一張羅ではないだろうが、高級そうなスーツ姿だ。  美人は3日で飽きるという。  どういう訳かこんなしけた――失礼、もといこじんまりとしたところがとっても素敵――動物園に数日と間を置かず、通い続けているこの男の顔に飽きたわけではないが、最初はその美貌と言ってしまってもおかしくない容姿に眩暈を覚えたのは昨日のごとくだ。  今ではこうして穴が開きそうなほど見つめることも出来るようになってしまった。  人間、慣れって怖い。  美人にも気圧されなくなったと考えることが出来るのならば、慣れって素晴らしいとも変換出来るやもしれない。  うん、素晴らしい――ことにしておこう。  だって、今あたしの手の中から逃した小動物さんたちも、入った当初はあたしから逃げまくっていた。――たぶん恐怖で――  それが今は、「ご飯だよー」と呼びかけて小屋に入れば、嬉しそうに餌をねだってくるようになったのだ。 *
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