第 2 話

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 西園寺、と名乗った風変わりな男が、このしけた――げほんげほん――、いや味のある子供だましの動物園に姿を見せ始めたのは、つい1ヶ月前位のことだった。  この動物園で働き始めて約1年。  まだまだ駆け出しぺーぺーだったあたしが、ようやく1人でこの小動物の世話を任せて貰えるようになった頃、ヤツは姿を見せ始めたのだ。  すらりとした長身、色素が薄いのか染めているのか、少しだけ茶色い髪。  綺麗に整えられた髪型に、センスの良い服装。  何より甘いマスクが印象的で、そのくせ声もバリトンで素晴らしいという、何ともこずるい容姿をした女性の理想を背負ったような、華のある男だった。  街中でも目立つだろうこの男性が、こんなとぼけた――げふんげふん――、人気のない動物園に来ようものなら周りは皆注目してしまう、と思いがちかもしれない、が。  そこはもういつ閉まっても誰も惜しまないだろう動物園である。  若い女性は勿論、大した人が来る訳もなく――。  特に注目されることもなく、彼は姿勢良く園内を歩いていた。 「ほらほら、掃除するから。  小屋の中にはいっちゃて!  掃除が終わったら日向ぼっこして、のんびりご飯食べれるから、ね?」  園内で子供に大人気――当社比?――と銘打たれた、小動物スペース。  ほんの50メートル四方の枠の中に動物の小屋があって、あたしは長閑に惰眠を貪っているウサギやらモルモットやらを煽り立てる。  彼らは猫とは違い、好きなところに糞を巻き散らす――失礼、言葉が悪くて――ので、午前中の小学校低学年や保育園などの遠足の予定が入っていたりする時は、朝、念入りに掃除する必要があるのだ。  朝1番にすればいいのだが、何故か朝一は小屋の中の掃除をすることに決まっている。  小屋の清掃も終わり、ウサギ達を追いやってる時に、彼は姿を現したのだ。 *
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