Phase 4 +想起+

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 「陸斗の手は冷たいよね」  「お前みたいに四六時中指先を動かしてる人間と比べたら、冷たいに決まってるだろ。で、AIは完成したのか?」  今回晴香が挑戦したのは人と対話するAIプログラムだった。それがどんなものか陸斗には見当もつかなかったし、編集中のプログラムソースを見ただけで眩暈がした。それがほんの一部分だと言われた日には始めて恋人が変人だということを認識した。  「するわけないよー、どれだけ大変か分かってないでしょ?」  「分からなし分かれる気もしないし分かりたくもない」  この娘はプログラミング中は何を言おうがしようが、まったく集中を切らせること無く画面に食らいついている。それは小さい頃からも同じで、ただ後ろから文字列が増えていくのを眺めていただけの陸斗はプログラムが完成するまで構ってもらえない事でたびたび拗ねていた。昨晩も深夜まで早く寝ろと説教の如く警告を発していた陸斗の努力の甲斐無く、晴香の就寝時刻は約束の時刻のわずか二十分前だった。  「大学に行けばもっと別のものに目を向けてくれるかと思ったのにな」  「それはそれこれはこれ、でしょ。それに──」  急に近付いてくる恋人の顔に思わず仰け反る。が、間に合わず気づいた時には抱き付かれた恰好になっていた。八分目位に成長した胸が押し付けられる形になっているが、今更気にするような関係でもなかった。接吻じゃないのかよ、と心の中で嘆息したのは秘密だ。  「──今は陸斗もいるしね」  「も、って何だよ」  何か引っかかる言い方に苦笑いしながら、目の前にある若干赤みがかった黒髪をワシワシと撫でる。それで嬉しそうに目を細める晴香、犬かお前はと言いたくなったがそれ以上に可愛く見えた為、ボサボサにした髪を手櫛で梳かして誤魔化す。
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