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今目の前で人が死んだ、何者かによって殺された。最近じゃ良くある出来事、でもいつもは手の届かない遠い場所での出来事。自分の網膜に、鼓膜に、鼻腔に、肌に刻み込まれた死という事柄を受け入れまいと、神経を他の事に回そうと意味の分からない行動を実行させる。
それでも目の前の出来事は事実であり、自分はそれを見てしまった。ならば受け入れるしかないだろう?嫌に冷静な自分が両目を開くように促す。耳を澄ませば分からなかった答えが聞こえるだろう?鼻で、肌で空気を感じれば今まで忘れていた世界が身近に感じられるはずだよ?
嘔吐感を押し殺しながら頭上を睨む。安堵の溜め息を漏らすテロリストらしき人影がピンを引っ掛けた指で死者に卑猥なサインを送っている。フランカーの下にいた自分は相手にとって死角にいたことになるから、恐らくこちらには気付いていない。仮に気付いたとしても今の奴が次の攻撃に入るまでの間に自分は逃げることができる。
いや待て、何故逃げる必要がある?逃避は立場の弱いモノの特権だろう?今の自分にそんな権利はあるか?いや無いだろう。何故なら目の前に優秀な凶器が置かれているのだから。
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