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「ん?」
卑猥なサインを送っていた男は眼下の光景が変化している事に気がついた。一番顕著なのはいないと思ってた人間がいることだが、その人間はあろうことかコックピットによじ登って中でグシャグシャになった死体をよけて、ドライバーシートに腰を下ろそうとしていた。
「何考えてんだ?アイツ」
男は窓際に立てかけておいたライフルを手元に引き寄せ、もう一度眼下にいる不可解な人間の存在を確認するとスコープを覗き込んだ。そして次の瞬間、トリガーを引く前にスコープ上に銃弾が現れた。
「のわぁ!?」
咄嗟に首を捻り銃弾を躱す男、真下から放たれた銃弾はビルの六階の男がいる部屋の窓枠を変形させた。何が起こったのか、それが分からない男ではない。下にいたあの人間が発砲してきた。それは良い、よくあることだ。問題なのは何故届いたのか、だ。あのフランカーはロンドン市警に配備されている標準タイプの戦闘型レギオン。その中に乗っているのは警官か軍人だから拳銃くらいなら持っていてもおかしいことは無い。仮にその銃で弾をここまで打ち上げられたとしよう。何故それを見た限り一般市民、よりによってお上りさんらしい少年がそんな芸当を披露できたのか。それが問題だ。
そのあり得ない少年をもう一度確認しようと顔を出した直後、舞い上がる銃弾の嵐を見ただけで男の記憶は終わった。
「フットペダル、アームレバー、ウェポンセレクタ異常なし、……、活動制限時間確認不能。戦闘モード起動」
HMDの表示が戦闘用のモノに切り替わった直後、陸斗はフットペダルを踏み込みながらアームレバーを最大限引っ張った。直後、ジェットコースターの落下時の気持ち悪い感覚が逆向きに襲ってくる。が、コックピット内の画面とHMDに表示されている視界は、おおよそ期待していた通りモノだった。
腕を振り上げながら跳躍する、立ち幅跳びなどで良くやる動作で上向きに飛んだフランカーは右手に持たれたマシンガンを窓に向けた。そして天井の比較的脆く、なおかつ軽い素材を狙ってトリガーを引く。
瞬発的に放たれた銃弾の雨は過たず天井を打ち抜き、その破片は見事に男の上に降り注いだ。だが死ぬほどの荷重も勢いもなく、その男を生き埋めにするに止めてフランカーは地上に降りた。
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