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「お嬢様」
「何?」
「紅茶をお持ち致しました」
いつもの昼下がり。
庭に植えられている沢山の薔薇達に囲まれ、バルコニーで本を読んでいると、私の執事が紅茶とおやつを持ってきた。
執事の名前は夕月智(ユウヅキ トモ)。彼は私が五歳の頃からずっと私の専属執事。智は勉強も料理も運動もダンスだって、何でも出来ちゃうスーパーマンみたいな人。
「……ありがと」
「いえ」
紅茶の入ったティーカップに一口つけて、お礼を言う。
智はテーブルから離れて、立ったまま私を見守る。願っても、決して同じ席に着くことはない。
――それが、お嬢様(私)と執事(彼)の距離だから。
でも、今日は"特別"。
「お嬢様今日は何をお読みになっていらしたんですか?」
「ねぇ」
智の質問には答えずに、私は切り出す。智は珍しくキョトンとしていたが、直ぐに何時ものように微笑んでみせた。
「何でしょうか?」
「今日、何の日か知ってる?」
「知らない」なんて言われたらどうしよう。きっと立ち直れない。
だけどそんな不安は直ぐに吹き飛んだ。
「ええ、勿論ですよ。18歳おめでとうございます。ディナーはお嬢様の好物を沢山ご用意しますね?」
……覚えていてくれた。堪らなく嬉しいなんて言ったら、貴方は笑う?
でも、それだけじゃ足りないの。
もっともっと近付きたい。今日くらい我が儘でも、許される?
「私、智に言いたいことが……」
「何ですか?」
ドキドキする。こんなにも胸が高鳴るのは、いつも彼といるときだけ。
「あの、ね……」
「はい?」
口下手な私を気長に待ってくれる、大人な彼。
早く、早く言わなきゃ
勇気を出さなきゃ何も変わらないんだ。
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