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案内された部屋は懐かしい匂いがした。
かつては自分が書類の山に悩まされた部屋であり、数々の出会いを生んだ部屋。
無機質なドアに純白の壁、澪都が工房として使っていた面影はなくなってしまっていたが、それでも、色々な思い出が頭の中を駆け巡る。
「そちらのソファーにお座りください」
彼女の言葉に従い、新調された本革製のソファーに身体を預ける。
「貴方の言葉の真偽を確かめさせていただきます。私の目を見てください」
読心術
心を読まれるのは嫌なのだが、疑惑を晴らすには仕方ないので我慢する事にした。
「瞼を閉じてください」
彼女の言う通りにする。
瞼をゆっくり閉じて、水面を想像する。
魔術を使う時も同じように水面を想像してから、物の形や物質などを計算しながら具現化させる。
何をされるのか分からなかったが、しばらく待っていると左頬に柔らかく暖かい何かが触れる。
「いつまで待たせるんだ?もう目を開けても良いか?」
返答はない。
指先から伝わる体温が更に熱を帯びて、今度は掌へ変わる。
彼女の気配が次第に近付いてくるのがわかる。
長い沈黙の後、彼女から紡がれた言葉に澪都は何も言う事が出来なかった。
「―――――んっ」
唇に伝わる体温が彼女からキスをされている事だと理解するのに多少の時間が必要だった。
むしろ、動揺の方が大きかった。
彼女の吐息が……
彼女の体温が……
彼女の魔力が……
澪都の思考を混乱させていく。
彼女は竜騎士。
その瞳は深い青色……。
彼女は誰?
その口は妖艶に微笑み……。
彼女は?
その裸体はとても美しくて……。
澪都の意識は深い夢の世界へ引きずり込まれた。
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