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―――懐かしい道を歩く。
『澪都様!?』
隣からいつも聞こえていた声の主はもう居ない。
孤独に相応しい時が澪都を包む。
暫く歩き続けていると、次第に澪都が理事長を勤める聖麗桜花女学校の生徒の姿が視界に入ってくる。
「おはようございます!?」
「あぁ、おはよう」
十年前に会った雪野や凛も最初はこんな生徒だったな……と懐かしい思い出に浸っていると。
「Good morning!!魔術師さん!?」
突然、腕に温かく柔らかい感触が触れた。
目線を下げると栗色の髪をした少女が澪都の右腕を強く抱き締めていた。
「あ、あの……アンタは?」
戸惑う澪都を他所に少女は腕に力を入れていく……と、勿論触れるところに触れてしまうわけで……。
「Hello!?私は聖麗桜花女学校の二年生で《リリアス・オルファ・アーシェリー》長い名前だから《アーシェ》で良いよ」
満面の笑顔はどこか懐かしくて、澪都の緊張は次第に緩んでいく。
久々の温もり、それがとても懐かしく……そして心を痛める。
「それでね、魔術師さん。折り入ってお願いがあるんだけど……私のお婿さんになってくれない?」
どうやら、平穏な生活は叶わぬ夢となるようだった。
高校二年生と言う事は17才で、いきなり会ったにも関わらず逆プロポーズをされると言う展開。
過去に様々な経験があるにしても、逆プロポーズは経験がない。
澪都が冷静に分析する中でアーシェの話はどんどん進んでいく。
「これで私達は夫婦になるわけだけど、誓いのキスが良い?それともこのままサボって初夜を迎えたい?どっちが良いかな、ダーリン!?」
もう、この妄想少女を止める事は出来ないようだ……。
「はいはい、なんでも良いけど腕を離せ。周りの視線が痛い」
「むむぅ、ハグくらいで照れないでください。私は魔術師さんの奥さんなんですから!?」
アーシェに何を言っても無駄なようだった。
次第に抵抗する気もなくなってくると、アーシェは尚の事、澪都の腕を優しく抱き締めてくる。
「おい!?そこの男女、不純異性交遊は禁止だぞ!!」
「あっ、風紀委員の紅ちゃんだ。こりゃあ朝からついてないなぁ~。名残惜しいけど続きはまた今度だね」
風紀委員の登場で渋々ながら澪都の右腕を解放すると、制服の裾とトレードマークの赤いリボンを風に靡かせて学校へ走っていった。
澪都は名残惜しそうにほのかに温かくなった右腕を左手で擦ると小さく笑みを溢した。
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