現実の始まり

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"あの天才科学者さんも、男にはその天才っぷりを発揮できないらしいな" "頼めば簡単にやらせてくれるらしいぞ、しかも生で!" 「おはよう」 バタンと大きな音を立てて私がドアを開けると、空気が止まった。 蜘蛛の子が散るように、研究員たちはそれぞれの持ち場に戻る。 最悪だ。 あれから私は、"元カレ"が、私がいる研究所の系列の別の研究所にいる研究員だと知った。 彼は私とのことを得意げに語り、奥さんにもバレなかったとご満悦らしい。 一年も付き合って、この結果か。 もう涙は出ないが、私の一年はなんだったのだろうと、今になって思う。 おかげで私は、この研究所に居づらくなった。 "そういう噂"は嫌でも耳に入ってくるし、中にはセクハラまがいのことをしてくる上司もいた。 キリストが生まれてから2000年と100年以上経っても、人間という生き物は、あまり進歩しないらしい。 そしてそれは私も同じ。 まるで、古い時代の不倫ソングのように、私の失恋はベタなものだった。 ――だから、科学が進歩したこの時代だからこその恋愛をしてやろうと決意したのだ。
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