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健太から離れた早苗は、一人廊下を歩いていた。
時折すれ違う教師も、遅刻し廊下を走っている生徒も、誰も早苗には気付かない。
当然だ。彼女は普通の人には見えないのだから。
視線を落とし歩いていると、チャイムが鳴り響いた。
ホームルーム終了のチャイムだったのだろう。
教室の移動や、廊下で談笑する生徒達で賑わい始める。
あてもなく歩くうちに、早苗はいつしか女子トイレに入っていた。
別に用を足したいワケではない。
というか、幽霊なのだから、そういった生理現象には無縁なのだが。
早苗自身、何故ここにきたのか理解出来なかった。
女子トイレには鏡の前で身嗜みを整える生徒や、女子特有の会話をする生徒が数人居たが、授業前の休み時間などたかが数分、すぐにその生徒達も出て行ってしまった。
「やっぱり見えないんですねぇ……」
ぽつりと呟いた後、また早苗の頬を涙が伝う。
死んで十数年経ち自分の置かれた状況にも慣れたとはいえ、時折誰にも気付いてもらえない寂しさが襲ってくる。
今日の様に肉親に会えば尚更だ。
流れ落ちる涙が次第に増え、声も我慢出来なくなりかけた時だった。
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