第2話 八神健太の長い1日

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 八神健太は不機嫌だった。 原因は「すぐ帰ってくる」そう言った早苗が未だに帰ってこないから。 早苗が消えたのがホームルーム中。 以降健太からの呼びかけにも応えず、姿を見せないまま時間は過ぎ現在は昼休み。  八神健太は不機嫌だった。 原因は今自分が置かれている状況。 昼休みに入ってすぐ現れた別のクラスの柔道部員五名によって囲まれ、健太は席から立てずにいる。 おそらくは新田が根回ししたのだろうが、彼にこのような友人がいたのには驚いた。 見た目だけで判断すれば、まったく気が合いそうにないからだ。  八神健太は不機嫌だった。 ただでさえ暑いのに、周りをガタイのいい柔道部員達に囲まれているせいで汗臭いわ暑苦しいわで不快指数は鰻登りに上昇中。 しかも何故か柔道部員達は全員タンクトップ姿で、これ見よがしに筋肉を見せつけている。 「なあ、健太よお……。そろそろ正直にゲロっちまったらどうだ?」  使い古された、一昔前の安っぽい刑事ドラマの様な台詞を吐く新田。 「ほら、コレでも飲め……」  新田が目で合図すると柔道部員の一人が、健太の机の上に紙コップに入ったジュースを静かに置くと 「故郷のお袋さん……泣いてんぞ?」  これまた刑事ドラマの様にブラインドに指を入れ、遠くを見つめる新田。  もっとも、教室の窓にはブラインドなど無いため、新田の動作は端から見ているクラスメート達には何をやっているのかまったく伝わっていないのだが。  まあ何にせよ、この状況で飲み物が出てきたのはありがたい。 微妙に温いのも、柔道部員達が泣ける童謡を口ずさんでいるのも、気にしない事にして健太はジュースを口に含んだ。
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