第2話 八神健太の長い1日

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「健太くーん!」  聞き慣れた声が聞こえ、顔は新田に向けたまま、健太は目線だけをそちらに向けた。 そして次の瞬間、盛大にジュースを吐き出した。  健太の席は窓側の一番後ろにあり、その対角線、つまりは廊下側の一番前の席付近でブンブンと手を振る早苗。それはもう満面の笑みで。  その横では仏頂面の見知らぬ女の子が腕を組んで立っていた。 健太には彼女が人間では無いことがすぐにわかった。 何故なら彼女も早苗同様、宙に浮いているから。 「健太……」  早苗から視線を外し新田に向けると、汗をかいた様に顔は濡れ、顎の先からはポタポタと水滴が滴り落ちている。 原因は健太なのだが。 「あー……。その、なんだ。……すまん!!」  そう言って健太は唖然としている柔道部員達の間をすり抜け、教室から脱出。 訳もわからぬままそれについて行く早苗と花子。  一方教室では新田が柔道部員達に新たな指示を与えていた。 「健太を捕まえろ!! 捕まえた奴には報酬としてドエロ本をくれてやる!!」  雄叫びを上げ走り出す柔道部員達。 「な、なあ新田! それは俺達も貰えるのか!?」  一人の男子生徒が鼻息を荒くして新田に問いかけ、教室に居た他の男子達も期待に目を輝かせている。 それを見た新田はニィッと口の端を釣り上げると、まるで役者の様に両手を広げ高らかに叫んだ。 「もちろんだとも! さあ、ハンター達よ!! 行くがいい!! そして宝を手に入れるのだ!!」  男達の気持ちが一つになった瞬間だった。 我先にと教室から飛び出す男子生徒達を、新田は満足げに見ていた。 ……が、女子生徒達の冷ややかな視線に耐えきれず、彼もすぐに教室を出て行くのだった。
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