第3話 父、帰る

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 茜を連れ自室に入った健太は通学鞄を机に置くと、部屋着に着替える為に制服を脱ぎ始め、早苗は両手で自分の顔を覆ってはいるものの、その様子を指の隙間からしっかり見ていた。 「なあ、花子。母さんって学生時代はどんな人だったんだ?」  ハーフパンツに足を通しながら、花子の方を向かずそう聞いた健太。 「何故その様な事をワシに聞く? 直接聞けば良かろう?」  花子も健太には目を向けず、茜の頬をつまんだりつついたりしながら、面倒そうに答えた。 「何でか知らねえけど、学生時代の話ってしたがらないんだよな……」  着替え終えた健太がベッドに腰を下ろすと、花子は「ふむ」と呟き、胡座をかいた状態で浮かび上がり健太の前へと移動した。 「本人が話したがらぬのに、ワシが話すワケにもいくまい? おぬしにも話したく無い事の一つや二つあるじゃろ?」 「ん……まあ、ね」  じっと見詰める花子の視線から目を逸らすと、気まずそうに鼻の頭を掻く健太。 「健太くん!! 夫婦の間に隠し事は無しですっ!!」  そんな空気を読めない早苗が頬を膨らませながら割り込むと、よくわかっていない茜も「そうだそうだー」とはやし立てる。
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