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花子が健太の耳元から離れると、健太はニィッと口角を釣り上げ
「クククッ……越後屋、お主も悪よのぅ」
「いえいえ、お代官様程では……」
と、二人が時代劇の悪役じみた会話をしていた、その頃。
「ほあああ……」
一階では次々と食卓に並べられていく料理を前に、早苗が目を輝かせていた。
「お義母様、今日は何か良い事でもあったんですか?」
健太の帰宅時とは打って変わって、鼻歌混じりでなにやらご機嫌な美月。
「ん? ようやくダンナが帰ってくるんだ」
まるで恋する乙女の様に満面の笑みでそう返す。
「パパかえってくるの!?」
茜も読んでいた絵本から顔を上げ、目を輝かせる。
「ようやく……って、お義父様どこに行かれてたんですか?」
早苗が健太に取り憑いて数日、父親の姿が見えない事を不思議に思ってはいたが、父親の話題が挙がる事は一度もなかった。
早苗も聞いてはいけないのだろうと、その話題には触れなかったのだが。
「あれ? 健太から聞いてない?」
美月の口調から察するに、重い話題では無い様だ。
「ダンナはね、入院してたんだ」
「入院……ですか?」
揃って首を傾げる早苗と茜。
そんな二人を見ながら、美月はクスクスと笑いながら言葉を継ぐ。
「そ。へそからキノコが生えてくる病気になっちゃってね」
「どんな奇病ですかそれ!?」
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