《お市と兄と太陽(おいっちにぃさん)》

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「…汚いわ……、お兄様…。 この話に、家族を引き合いに出すだなんて……。」 「汚い? 当然の話だ。 家族とアイツ、どちらが大切なのかをもう一度考えてみろ。 お前が冷静になれば、考えることなく、自ず(おのず)と答えは出てくるだろう。 この話はここまでだ。 今晩、一人でじっくりと考えることだな。 いいな?」 「嫌っ…、そんなの嫌っ…。 あの方と家族を天秤にかけて、どちらかだけを選ぶだなんて、そんなのあんまりだわ…。 私にはそんなことは出来ない…。」 「まだ言うか、お市。 お前が何を言っても、俺はアイツだけは絶対に認めないからな。 なぜならば、アイツはひ……。」 「お兄様なんて嫌いよっ…。」 「待てっ、お市。」 ドタドタドタドタッ…… 「……くそっ…。 行ってしまったか……。」 (分かってくれ、お市…。 他の奴ならばまだ許せるが、アイツだけは…。 アイツだけは絶対に認められないのだ。 なぜならば、アイツは……。) これが、昨晩の話。 そして、今朝。 ドタドタドタドタッ…… 「んっ? おいっ、お市…。 お前…まさか……。」 「そうよ…、私…決めたの……。 あの方の元へ行くわ…。」 「冷静になれ、お市。 お前はアイツの元へ行って、本当に幸せになれると思っているのか? これは、お前以外の皆が思っていることなのだが、アイツは確実にお前のことを幸せにはしてくれない。 それは、お前がアイツの元へ行かずとも分かることだ。 俺は、お前を困らせたくて言っているわけではないのだぞ。 お前に幸せになって欲しいから、必死にお前のことを止めているのだ。 兄のこの気持ちを理解してくれ。 俺じゃなくてもいい。 父、母、祖父、祖母、吉秀(よしひで)、猫の何とかかんとか。 家族全員が、お前の幸せを望んでいるのだ。 俺だって、お前自身が選んだ相手と幸せになれるのであれば、そうなって欲しいと思っている。 だけど、アイツだけはダメなんだ。 なぜならば、アイツはひ……。」 「もう沢山よ…。 誰もあの方のよさを分かってはくれない…。 分かってくれないというよりも、分かろうとはしてくれない……。 だけど、私だけは分かっているの。 それだけで十分。 …私……、決めたから…。 あの方の元へ行くわ。」
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